はじめまして。かがわ海ごみリーダーの木村友香です。
2023年に引き続き、2024年2月に、かがわガイド協会のメンバーが中心となって、「海ごみホットスポットクリーンアップ作戦」を実行しました。その名の通り、海ごみが大量に溜まる場所(=海ごみホットスポット)での、集中的な回収です。
わずか6日間で、約6,640kgもの海ごみを回収しました!
一般的な海岸での海ごみ清掃では、1日あたり100kg集めることができれば非常に多いほうですが、この清掃では1日平均1,000kg以上!きわめて効率的な海ごみ回収です。
一体、どのような場所で、どのようにして行われたのでしょうか。
この記事では、海ごみホットスポットで、専門家が知識と経験・チームワークを活かしながら、楽しく爽やかにクリーンアップを行った現場をレポートします。
香川県最大の海ごみホットスポット!
場所は、香川県観音寺市の三豊干拓海岸。台風や冬の季節風に乗って大量の海ごみが漂着します。
消波ブロックと堤防に挟まれているため、一度入ったごみがなかなか海に戻らず、ここに溜まっています。図らずも、「海ごみキャッチャー」として機能してしまっているのです。
そのごみの量はとてつもなく、香川県の作成した「第3次香川県海岸漂着物対策等推進計画」で最重点区域に指定されています。足場が悪く危険なので、普段は立入禁止の場所です。
このように、海ごみが海岸線約2,000mをずらーっと埋め尽くしています。
何十年も溜まりっぱなしの海ごみが、厚さ1mほどの層になって積もっています。
こんな広大な海ごみの溜まり場、香川県には他にありません。
ちなみに、香川の海ごみが他の県と比べて多いのかというと、そういうわけでもありません。ここ数年、様々な団体や個人が海岸清掃を行っているので、ごみがとても少ない海岸が多いです。
しかし、離島のアクセスが悪い場所やこの三豊干拓海岸など、人が普段立ち入りにくい場所には、依然としてごみが大量に漂着したままとなっています。
こうしたホットスポットでは、ごみを探し歩く必要がないので、たくさんの海ごみを短時間で効率よく回収することができます。したがって、瀬戸内海のごみの削減のために、ホットスポットでの重点的回収は不可欠です。
2024年に行ったクリーンアップについて
回収および調査の方法
かがわガイド協会がこの場所で大規模な回収を初めて行ったのは、2023年の2月。下の写真はそのときの回収後の様子。中央に並んでいるのは、「トン袋」と呼ばれる大きなフレコンバッグです。この中に、回収した海ごみが詰め込まれています。
2023年は、海岸線2,000mのうち600mの区間を清掃しました。香川県産業廃棄物協会さんの回収量を含めて、合計約10.4トンの海ごみを回収しました(そのうち、かがわガイド協会が手作業で回収したのは約8,500kg)。
2024年はその600mに加えて、新たな区間400mのごみも拾いました。環境省や瀬戸内オーシャンズXに関わる香川県、愛媛県、岡山県、広島県の職員、地元の環境活動者なども協力してくださり、延べ人数97名で実施しました。
また、それと同時進行で、拾ったごみの種類や量を調査・記録しました。ごみが流れ着く社会的背景を捉え、海ごみの発生抑制につなげるためです。
まず、ごみは、以下の8分類に分けてごみ袋に入れます。
- 発泡スチロール
- カキ養殖用パイプ(のちほど説明します)
- その他プラスチック
- ペットボトル
- ビン・カン
- 液体入りペットボトル・ガラス・金属
- 危険物
- その他(粗大ごみ)
そして、その種類ごとに、重さとごみ袋の数を記録します。
その後、自治体の分別方法に合わせて、ごみを5種類に分け、搬出用のトン袋に入れます。
大量の海ごみを回収する様子
2月半ばの朝、海ごみ拾いのプロが現場に降り立ちました。全6日間のうち、3日だけ私もお手伝いしました。
まず、こちらが新たに回収する400m区間の写真です。
大小さまざまなごみが山積みになっています。この下にはもともと岩があるのですが、埋もれて全く見えません。
個人的な感想としては、ごみの量が多すぎて、言葉が出ませんでした。それでも、心強い仲間が一緒だったので、「きれいにできる」という希望を抱きながらクリーンアップに取り組むことができました。
上から見て目立つのは、発泡スチロールやペットボトル。これらは軽く、水に浮きやすいため、海ごみの層の一番上に溜まります。
最初はその上を歩かざるを得ないので、それらが擦れたり割れたりして、「ギュギュッ、パリパリ」という不思議な足音がしました…(笑)
日本ではペットボトルの9割以上は回収されています。しかし、年間の生産量は230億本にものぼるため、回収されなかった多くのペットボトルが自然界に流出してしまっていると考えられます。
ペットボトルや発泡スチロールをだいたい拾い終わると下から見えてくるのが、食品や洗剤の容器包装、バケツ、靴などの生活ごみです。
拾うというより、ひたすらかき集めるといった感じです。
中には、過去の水害により海に流出したのか、絶対にポイ捨てされないような、かわいいぬいぐるみも。
他にも、歯ブラシや農業肥料の袋などなど、あらゆるプラスチック製品のオンパレードでした。
しかしやはり、圧倒的に数が多かったのは、ペットボトル、食品トレー、飲料などのプラ容器、ストローといった「使い捨てプラスチック」でした。
海ごみを詰めた袋が、ものすごいスピードでたくさんできていきます。
初めて参加して分かったのですが、ホットスポットのごみ拾いは、時間と体力との戦いでした。
2024年の回収目標は5,000kg。限られた日程のなかで、できるだけ海をきれいにしたい…。
中腰になってごみを詰めたり、重い袋を持ち上げてバケツリレーで移動させたり。
体力的にはハードな作業でしたが、なぜかとても楽しかったです。
「海をきれいにしたい」という想いを持った人たちがこうして同じ目標のもと集まっているので、空気感がとても心地よかったのかもしれません。
皆さんと一緒に海をきれいにすることで、自分の中のエネルギーが満ち溢れるのを感じました。
瀬戸内海地域で発生した海ごみ
広島周辺海域で使われているカキ(牡蠣)養殖用パイプの数も、2023年と同様に大量でした。自分の足もとを見て視界に入る範囲で2~3本は必ず見つかるほど。
実は、このカキ養殖用パイプは、瀬戸内海からはるか遠い太平洋の中心まで流れ着いて、そこにすむ「コアホウドリ」という海鳥がたくさん食べてしまっている、危険なごみです。
このパイプをはじめとする固くて軽いプラスチックは、海鳥にとってエサと見分けがつきづらいものです。使い捨てライターやペットボトルキャップなども食べてしまうことが確認されています。
コアホウドリの親鳥がプラスチックを誤ってヒナに与えてしまうことで、ヒナの2割が栄養失調や脱水症状を起こし、命を落としてしまうそうです。
2024年はカキパイプ11,297本分を回収。
仮に、コアホウドリのヒナがカキパイプだけをおなかいっぱい(12本)食べてしまうとして、11,297本が何羽分なのか計算すると、11,297÷12≒941羽分。
つまり、この6日間で拾った海ごみのうち、カキパイプだけでも、941羽以上のコアホウドリのヒナの命を救える量だというわけです。すごい!!
また、ライターや打ちっぱなしにされたゴルフボールなど、地名や店名が記入されていて、どこから流れてきたのかが分かるものも見つかります。
下の地図が、それらの発生源と考えられる場所をマッピングしたものです。
瀬戸内海周辺の陸から、川を通って海に流れてきたようです。
分厚く積もった「マイクロプラスチック」との戦い!!
さて、クリーンアップ開始から数時間が経過。大きなごみは目立たなくなってきました。しかし、ここからが、心身両面において一番大変でした…
足もと全体を埋め尽くすラスボス。深さ数十cmにも及ぶマイクロプラスチックの層との勝負、スタートです。
マイクロプラスチックとは、直径5mm以下の小さなプラスチックのことを指します。
もともと大きかったプラスチック製品が日光や水に晒されてぼろぼろになってしまったものや、あらかじめ5mm以下に形成されたもの(プラスチック製品の原料「レジンペレット」や農業用肥料カプセルなど)があります。目に見えないほど小さいものもあり、そこまで小さくなると回収はほぼ不可能です。
そんなマイクロプラスチックが、この海岸線2,000m一面を、分厚くぎっしりと埋め尽くしていたのです。早く回収しないと、海へ再流出してしまいます。
下の写真の右下あたりが、マイクロプラスチックの層の断面。たまに大きなごみも混ざっています。底の岩も見えています。
いや~、やっぱり大量のごみですね(笑)。
これらを両手ですくっては袋に入れるという作業をひたすら繰り返します。
マイクロプラスチックは細かくてかさばらないぶん、拾うときに重さが応えて、それまでの倍くらいの体力を消耗しました。
そして、地面を掘るような姿勢を保つのも、かなり腰にきました! しかもこれを数時間続けるのです。
あまりにも大量なので、たくさん拾ってる手応えはあるのに終わりが見えないという声も聞かれました。
心が折れそうになったり、無言モードになってただひたすら回収したりでしたが、仲間と励まし合いながら、なんとか時間いっぱい拾いきりました。
途中で差し入れをくださった地元の方や、わざわざ応援に駆けつけてくださった方にも、とても元気づけられました。
2023年にクリーンアップした場所のモニタリング調査
さて、2023年に回収した600mの区間でも、どれだけごみが新たに溜まったか調べながら拾いました。
2023年に一度きれいにした場所なので、先ほどまでお伝えした区間より圧倒的にごみが少ない!それでも、新たな海ごみが海水と一緒に消波ブロックを超えて入ってきていました(流木は自然に還るので、回収しません)。
【回収結果】 2024年は6.6トン!2023年と合わせると17トン!!
きりがないほどプラスチックがたくさんあるので、全部は拾うことができませんでしたが、それでもかなりきれいになりました。
袋数:30リットルの袋が2,663袋
重量:6,640kg
2024年2月のホットスポットクリーンアップ作戦における海ごみ回収量
数十年間ごみが放置されていたことにより、プラごみのマイクロプラスチック化が進んでいました。表には記載されていませんが、拾ったときの手応えから、「その他プラスチック」の3分の1から半分ほどはマイクロプラスチックだったと推測しています。
全回収量6,640kgのうち5,640kgは、2024年に新たに挑んだ400mの区間で拾いました。想像以上にごみがずっしり積もっていて、マイクロプラスチックを取りきることができず悔しいです…
そして、残りの1,000kgは、2023年2月にもきれいにしていた600mの区間で拾いました。このことから、この区間には1年間にだいたい1,000kgの海ごみが入ってくると考えられます。つまり、10.4トンを同じ区間で回収した2023年は、およそ10年分の海ごみを10日間で拾い上げた、ということになります…!さすがホットスポットでの重点回収。驚くべきスピードで海をきれいにできますね!
ちなみに、2024年の回収量6,640kgに2023年の10.4トンを足すと、約17トンです!
香川県の調査によると、香川の海岸に漂着している海ごみは150トン。ということは、17トンというのはなかなかに効率的ですよね!
回収したごみは、株式会社大運組と株式会社パブリック、観音寺市にご協力いただき、クレーンで吊り上げられ、搬出、処理しました。
皆さん、お疲れ様でした!
海ごみのない美しい瀬戸内海を目指して
以上のように、短期間でとても効率的に海ごみを回収できる「ホットスポット」。
2023年と2024年で拾った合計1,000mの区間には、毎年約2,000kgの新たな海ごみが入ってくると推測されます。これを逆に言えば、これからは、その2,000kgを毎年回収すれば、そこはだいたいきれいな状態を保てるということです!それができると、その場所だけは、ごみの海への再流出がゼロになります。
ただ、取りきれなかったマイクロプラスチックはまだそこに残っています。マイクロプラスチックの大量回収は、労力も時間もかかって大変でした。でも、さらに細かくなって回収できなくなる前に取りきりたい!!そしてその後、ここに入ってきた新しいごみを大きいうちに拾うことで、非常に効率的な重点回収になります。
こうしたホットスポットでの効果的な回収が各地で行われると、瀬戸内海のごみは劇的に減ると思われます。
(↑)ホットスポットのすぐ横は、穏やかな瀬戸内海。うっとりする素敵な景色でした。
もちろん、海ごみを拾うことだけでなく、普段の生活で海ごみが出ないような工夫をすることも、同じくらい大事。
マイボトルを持ち歩いたり、プラスチック包装の少ない商品を選んでみたり。一人一人の力が繋がって何倍も強くなり、このクリーンアップ作戦のように、ごみのない美しい瀬戸内海を現実に近づけることができると信じています。
2023年の様子は、隠岐在住・香川大好きライターの小坂真里栄さんがレポートしていますので、こちらもぜひご覧になってください。
記事:木村友香(香川県海岸漂着物対策活動推進員(かがわ海ごみリーダー))